インサイダー取引規制(上場会社向け・金商法+東証ルール)

区分:現行制度(金融商品取引法+取引所規則)

30秒でわかる:この規制のポイント

区分 現行制度(金融商品取引法+取引所規則)
誰が対象 上場会社とその役員・従業員/上場準備会社(法務・IR・総務)
守ること 重要事実が公表され、所定の時間が経過してから売買する / 事前申請・承認やブラックアウト期間など、社内ルールに沿って売買する
罰則 違反には5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)。
今やること インサイダー取引防止規程(内部者取引管理規程)を整備・点検する(ほか5件は下のチェックリスト参照)

かんたん要約

  • ●上場会社の関係者等が、未公表の重要事実を知って自社株などを売買することは、金融商品取引法でインサイダー取引として禁止されています。
  • ●対象は役員・従業員だけでなく、取引先など会社関係者や、情報を受け取った人にも及びます。
  • ●法律の規制に加えて、東証(JPX)の適時開示など取引所のルールも上場会社に関わります。

対象となる人・企業

上場会社とその役員・従業員/上場準備会社(法務・IR・総務)

規制のポイント(やってはいけないこと → 守るべきこと)

やってはいけないこと

未公表の重要事実を知ったまま、自社株などを売買する

守るべきこと

重要事実が公表され、所定の時間が経過してから売買する

やってはいけないこと

役員・従業員の自社株売買を会社が把握していない

守るべきこと

事前申請・承認やブラックアウト期間など、社内ルールに沿って売買する

※ インサイダー取引規制は金融商品取引法による規制で、これに加えて東証(JPX)の適時開示など取引所のルールも関わります。本ページは概要です。詳細は金融庁・JPXの資料でご確認ください。

くわしい解説と実務への影響

売買が禁止される期間(重要事実の公表の前後)

重要事実が決定・発生

会社関係者・情報受領者が知る

公表前|売買は禁止

この期間に自社株等を売買するとインサイダー取引

適時開示で公表

東証ルール(決定は原則当日)

公表後|売買が可能に

TDnet掲載は縦覧の時点から/報道機関公開のみは12時間経過後

インサイダー取引規制とは

上場会社の関係者等が、職務や地位により知った、投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報(重要事実)を利用して、自社株などを売買することは、金融商品取引法で禁止されています。公正な市場と投資家の信頼を守るための規制です。

規制の対象となる人

会社関係者(役員、従業員、帳簿閲覧権を持つ株主、契約締結者・交渉者など)と、これらの人から情報を受け取った第一次情報受領者が対象です。退職等から1年以内の元会社関係者も含まれます。公開買付け(TOB)に関する情報については、公開買付者等関係者も規制されます。

罰則・課徴金

違反には5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(これらの併科もあり)が科されます。法人の業務として行われた場合、法人には5億円以下の罰金が科されます。得た利益は没収・追徴され、行政上の措置として課徴金(利得相当額)も科されます。

「公表」の定義と12時間ルール(金商法166条4項・施行令30条)

「公表がされた」と認められるのは、金商法166条4項と金商法施行令30条が定める措置がとられたときです。具体的には、①上場会社等が重要事実を金融商品取引所に通知し、取引所において公衆の縦覧に供されたとき(東証のTDnetによる適時開示がこれに当たり、掲載された時点で「公表」になります)、②代表取締役等(またはその委任を受けた者)が2以上の報道機関(時事を報道する日刊新聞社・通信社、経済紙、NHK・基幹放送事業者)に公開し、公開の時から12時間が経過したとき(いわゆる「12時間ルール」)、③重要事実が記載された有価証券報告書等が公衆の縦覧に供されたとき、のいずれかです。報道機関への公開だけでは12時間待つ必要があるため、実務ではTDnetでの開示を確認してから売買するのが基本です。

役員・主要株主への上乗せ規制

上場会社の役員・主要株主には、6か月以内の短期売買で得た利益を会社に返還する義務(短期売買利益の返還)、自社株の売買報告書の提出、自社株の空売りの制限などの規制もあります。

東証(JPX)の取引所ルール

法律に加えて、東証(JPX)の「適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)」が、株価に影響する重要情報を速やかに公表することを上場会社に求めています(決定事実は原則として決定当日に開示)。また、内部者取引の防止のための管理体制の整備や、役員情報を登録する「J-IRISS」の利用も求められます。あわせて、重要情報を一部の人にだけ伝えた場合に公表を求める「フェア・ディスクロージャー・ルール」(金商法)も関わります。

実務上のポイント

インサイダー取引防止規程の整備、役員・従業員の自社株売買の事前申請・承認、決算発表前などの売買自粛期間(ブラックアウト期間)の設定、重要事実の情報管理、適時開示の体制づくりを進めましょう。上場準備会社は上場前から体制を整えておくことが重要です。

インサイダーとは何か/株式の売買が解禁される「公表」とは

未公表の重要事実を知っていても、その事実が「公表」された後であれば自社株などの売買は可能になります。金融庁のQ&Aによると、実務で広く用いられている公表の方法は、上場会社が証券取引所等に重要事実を伝達するTDnet(適時開示情報伝達システム)です。会社がTDnetを通じて情報を通知すると、証券取引所等が共同運営するウェブサイト「適時開示情報閲覧サービス」に掲載され、即時に「公表」されたことになります。一方で、メディアによるスクープ報道があっただけでは法令上の「公表」がされたことにはならない点に注意が必要です。社内ルールでは、この公表の有無とタイミングを正確に確認できる運用を整えることが重要です。

規制の対象となる金融商品の範囲

インサイダー取引規制の対象となる金融商品には範囲があります。金融庁のQ&Aによると、主な対象は上場会社についての株式・新株予約権証券・社債のほか、J-REIT(不動産投資信託)や上場インフラファンドです。これに対して、ETF(上場投資信託)や一般に販売されている大部分の投資信託は規制の対象ではありません。ただし、いわゆる自社株投信のように個別の上場会社の株式等のみを投資対象とする株式投資信託は対象に含まれます。社内の売買管理ルールを設計する際は、過度に取引を制限しないよう、規制対象となる商品とそうでない商品を区別して整理しておくとよいでしょう。

個別列挙されない事実も対象となる「バスケット条項」

重要事実は、金融商品取引法第166条第2項第1号から第3号まで(子会社については第5号から第7号まで)に網羅的・具体的に列挙されています。これに加えて、金融庁のQ&Aによると、同項第4号の「バスケット条項」(子会社については第8号)が設けられており、列挙された事実以外でも、会社の運営・業務・財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものは重要事実として扱われます。過去にバスケット条項が課徴金納付命令や刑事告発の対象となった例として、複数年度にわたる粉飾決算などの決算・財務関連情報や、主要製品の重大な欠陥が判明した事例などが挙げられています。個別列挙に当てはまらないからといって安心せず、投資判断に大きく影響する事実は公表前の取引を控える運用が求められます。

金融商品取引法166条の構造(条文を確認したい方へ)

インサイダー取引規制の中心となる条文は金融商品取引法第166条で、全6項で構成されています。第1項は規制対象となる「会社関係者」を第1号から第5号までで定めます(役員等、会社法433条1項の帳簿閲覧権を持つ株主、法令に基づく権限を有する者、契約を締結している者・締結の交渉をしている者など)。同項の後段では、これらに該当しなくなった後1年以内の元会社関係者にも同様に適用されると定めています。第2項は「重要事実」の定義で、条文上は第1号から第14号まで列挙されています。第3項は会社関係者から重要事実の伝達を受けた者(情報受領者)にも売買禁止が及ぶことを定め、第4項は売買が解禁される「公表」がされたといえる場合を第1号から第4号までで定めます。第5項は同条にいう親会社・子会社の定義です。条文の原文は、下の出典リンク(e-Gov法令検索・金融商品取引法 第166条)から確認できます。

重要事実は「4類型」ではなく条文上14号ある(166条2項)

重要事実は一般に「決定事実・発生事実・決算情報・バスケット条項の4類型」と説明されますが、これは上場会社等そのものに関する第1号から第4号を指した整理です。条文の第2項は実際には第14号まであり、第5号から第8号が子会社について同じ4分類(決定・発生・決算・バスケット)を定め、第9号から第14号が上場投資法人等(J-REITなど)に関する定めとなっています。したがって自社が上場投資法人等である場合や、子会社に生じた事実を扱う場合は、対応する号を確認する必要があります。また第2項の柱書には、第1号・第2号・第5号・第6号・第9号・第10号・第12号・第13号に掲げる事実については、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定める基準(軽微基準)に該当するものを除く、という除外が置かれています。決定事実・発生事実の系統には軽微基準による除外があり、決算情報やバスケット条項の号にはこの除外が付いていない点が実務上の分かれ目です。

「公表」の定義は166条4項にある

売買が解禁される「公表がされた」といえる場合は、金融商品取引法第166条第4項に定められています。同項は、重要事実について、多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと、または金融商品取引法25条1項に規定する書類(有価証券報告書など)に当該事項が記載されている場合において、その書類が公衆の縦覧に供されたことを「公表」としています。政令で定める措置の具体的な内容は金融商品取引法施行令30条にあり、実務ではTDnet(適時開示情報伝達システム)による開示が広く用いられています。2以上の報道機関への公開による方法をとる場合は、公開から12時間の経過が必要とされます(12時間ルール)。条文を確認する場合は、166条4項とあわせて施行令30条を参照してください。

その売買、インサイダー取引にあたる?

未公表の重要事実を知っている状態で自社株などを売買しようとしている?

重要事実を職務等に関して知っており、公表前に売買する場合

インサイダー取引として禁止される(会社関係者・情報受領者が対象)

重要事実がTDnet等で公表された後に売買する場合

売買は可能(公表後は解禁)

そもそも重要事実を知らずに売買する場合

インサイダー取引にはあたらない

出典: 金融庁・証券取引等監視委員会『インサイダー取引規制に関するQ&A』基礎編(問1・問3・問4)。スクープ報道があっただけでは法令上の『公表』にはあたらない点に注意。

インサイダー取引規制の対象となる金融商品・ならない金融商品

規制の対象(主なもの)

  • –上場会社の株式
  • –新株予約権証券
  • –社債
  • –J-REIT(不動産投資信託)
  • –上場インフラファンド
  • –自社株投信(個別の上場会社株式等のみを投資対象とする株式投資信託)

規制の対象ではない

  • ✓ETF(上場投資信託)
  • ✓一般に販売されている大部分の投資信託

「重要事実」の類型(金商法166条2項の号に沿った整理)

類型例
決定事実(第1号)株式の発行(増資)、自己株式の取得、合併・会社分割、事業譲渡、業務提携・解消 など(業務執行を決定する機関が「決定」した事項)
発生事実(第2号)災害・業務に起因する損害、主要株主の異動、訴訟の提起・判決、行政処分 など(会社に「発生」した事項)
決算情報(第3号)売上高・経常利益・純利益(売上高等)や配当について、公表された直近の予想値と新たな予想値・決算の差が大きい場合(一定の基準を超える変動)
バスケット条項(第4号)前3号以外で、会社の運営・業務・財産に関する重要な事実であって投資判断に著しい影響を及ぼすもの
子会社に係る事実(第5〜8号)子会社の決定事実・発生事実・決算情報・バスケット条項。親会社である上場会社等の重要事実として同様に扱われます
公開買付け等事実(金商法167条)公開買付け(TOB)等の実施・中止の決定(166条とは別に167条で規制)

第9号以下は上場投資法人等(REIT)に関する類型です。号ごとの正確な内容は条文(下記e-Govリンク)をご確認ください。

違反した場合のリスク

違反には5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)。法人は5億円以下の罰金。得た利益は没収・追徴され、別途、課徴金(利得相当額)の対象にもなります。

対応チェックリスト

自社で行う対応の一例です。チェックを入れると進捗がこの端末に保存されます(サーバーには送信されません)。

0 / 6 完了

※ 一般的な対応例です。個別の要否は専門家にご確認ください。

よくある質問

役員でなくても対象?
はい。役員だけでなく、従業員や、契約交渉中の取引先など「会社関係者」、さらにそこから情報を受け取った人(情報受領者)も規制対象です。退職等から1年以内の元会社関係者も含まれます。
家族や知人が売買した場合はどこまで対象になりますか?
会社関係者本人でなくても、会社関係者から未公表の重要事実を直接聞いた人(第一次情報受領者)が売買すれば規制の対象です。家族・友人・知人でも変わりません。また、自分では売買せず、利益を得させる目的で他人に売買を勧める行為(取引推奨)も規制されています。
「重要事実」にはどんなものがありますか?
金融商品取引法166条2項に列挙されており、大きく①会社の決定事項(合併・新株発行・業務提携など)、②発生した事実(災害に起因する損害など)、③決算情報(業績予想の大幅な修正など)、④それ以外でも投資判断に著しい影響を及ぼす事実(バスケット条項)の4類型があります。子会社に生じた重要事実も対象です。
違反するとどうなりますか(罰則・事例)?
5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金(併科あり)、法人には5億円以下の罰金が科され得ます。刑事罰のほかに利得相当額の課徴金納付命令の制度があり、証券取引等監視委員会は、公表前の業績修正や業務提携などの重要事実を利用した事案について課徴金勧告・刑事告発を行っています。
重要事実が「公表」された後、いつから売買できますか?
公表の方法によって異なります(金商法166条4項・施行令30条)。TDnetなど金融商品取引所での公衆縦覧(適時開示)は、縦覧に供された時点で「公表」となり、以後は売買できます。2以上の報道機関への公開の場合は、公開の時から12時間の経過が必要です(12時間ルール)。有価証券報告書等の公衆縦覧もその時点で公表となります。実務ではTDnetの開示を確認してから売買するのが確実です。
東証のルールと法律はどう違う?
インサイダー取引の禁止そのものは金融商品取引法(法律)の規制です。これに加えて、東証(JPX)の「適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)」など取引所のルールが、重要情報の速やかな公表を上場会社に求めています。両方を踏まえた体制づくりが必要です。
対象になるのはどんな人・企業ですか?
上場会社とその役員・従業員/上場準備会社(法務・IR・総務)が対象です。自社が該当するかは個別にご確認ください。
どんな規制ですか?
「未公表の重要事実を知ったまま、自社株などを売買する」はインサイダー取引などの規制の対象です。「重要事実が公表され、所定の時間が経過してから売買する」を守る必要があります。 「役員・従業員の自社株売買を会社が把握していない」はインサイダー取引などの規制の対象です。「事前申請・承認やブラックアウト期間など、社内ルールに沿って売買する」を守る必要があります。
注意しておくことはありますか?
インサイダー取引規制は金融商品取引法による規制で、これに加えて東証(JPX)の適時開示など取引所のルールも関わります。本ページは概要です。詳細は金融庁・JPXの資料でご確認ください。
法令の原文はどこで確認できますか?
金融商品取引法の条文は、e-Gov法令検索(デジタル庁)で確認できます。本ページ下部のリンクからアクセスできます。

関連する改正

一次情報・出典

この記事は制度の概要をわかりやすくお伝えするものであり、法律上のアドバイスではありません。 要件・運用などは変更される場合があります。実際の対応にあたっては上記の一次情報をご確認のうえ、 個別の事案は社会保険労務士・税理士などの専門家にご相談ください。

この情報の最終確認日:2026年8月9日