インサイダー取引規制(上場会社向け・金商法+東証ルール)
区分:現行制度(金融商品取引法+取引所規則)
かんたん要約
- ●上場会社の関係者等が、未公表の重要事実を知って自社株などを売買することは、金融商品取引法でインサイダー取引として禁止されています。
- ●対象は役員・従業員だけでなく、取引先など会社関係者や、情報を受け取った人にも及びます。
- ●法律の規制に加えて、東証(JPX)の適時開示など取引所のルールも上場会社に関わります。
対象となる人・企業
上場会社とその役員・従業員/上場準備会社(法務・IR・総務)
規制のポイント(やってはいけないこと → 守るべきこと)
やってはいけないこと
未公表の重要事実を知ったまま、自社株などを売買する
守るべきこと
重要事実が公表され、所定の時間が経過してから売買する
やってはいけないこと
役員・従業員の自社株売買を会社が把握していない
守るべきこと
事前申請・承認やブラックアウト期間など、社内ルールに沿って売買する
※ インサイダー取引規制は金融商品取引法による規制で、これに加えて東証(JPX)の適時開示など取引所のルールも関わります。本ページは概要です。詳細は金融庁・JPXの資料でご確認ください。
くわしい解説と実務への影響
売買が禁止される期間(重要事実の公表の前後)
重要事実が決定・発生
会社関係者・情報受領者が知る
公表前|売買は禁止
この期間に自社株等を売買するとインサイダー取引
適時開示で公表
東証ルール(決定は原則当日)
公表後|売買が可能に
所定の時間の経過後
インサイダー取引規制とは
上場会社の関係者等が、職務や地位により知った、投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報(重要事実)を利用して、自社株などを売買することは、金融商品取引法で禁止されています。公正な市場と投資家の信頼を守るための規制です。
規制の対象となる人
会社関係者(役員、従業員、帳簿閲覧権を持つ株主、契約締結者・交渉者など)と、これらの人から情報を受け取った第一次情報受領者が対象です。退職等から1年以内の元会社関係者も含まれます。公開買付け(TOB)に関する情報については、公開買付者等関係者も規制されます。
罰則・課徴金
違反には5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(これらの併科もあり)が科されます。法人の業務として行われた場合、法人には5億円以下の罰金が科されます。得た利益は没収・追徴され、行政上の措置として課徴金(利得相当額)も科されます。
役員・主要株主への上乗せ規制
上場会社の役員・主要株主には、6か月以内の短期売買で得た利益を会社に返還する義務(短期売買利益の返還)、自社株の売買報告書の提出、自社株の空売りの制限などの規制もあります。
東証(JPX)の取引所ルール
法律に加えて、東証(JPX)の「適時開示(タイムリー・ディスクロージャー)」が、株価に影響する重要情報を速やかに公表することを上場会社に求めています(決定事実は原則として決定当日に開示)。また、内部者取引の防止のための管理体制の整備や、役員情報を登録する「J-IRISS」の利用も求められます。あわせて、重要情報を一部の人にだけ伝えた場合に公表を求める「フェア・ディスクロージャー・ルール」(金商法)も関わります。
実務上のポイント
インサイダー取引防止規程の整備、役員・従業員の自社株売買の事前申請・承認、決算発表前などの売買自粛期間(ブラックアウト期間)の設定、重要事実の情報管理、適時開示の体制づくりを進めましょう。上場準備会社は上場前から体制を整えておくことが重要です。
株式の売買が解禁される「公表」とは
未公表の重要事実を知っていても、その事実が「公表」された後であれば自社株などの売買は可能になります。金融庁のQ&Aによると、実務で広く用いられている公表の方法は、上場会社が証券取引所等に重要事実を伝達するTDnet(適時開示情報伝達システム)です。会社がTDnetを通じて情報を通知すると、証券取引所等が共同運営するウェブサイト「適時開示情報閲覧サービス」に掲載され、即時に「公表」されたことになります。一方で、メディアによるスクープ報道があっただけでは法令上の「公表」がされたことにはならない点に注意が必要です。社内ルールでは、この公表の有無とタイミングを正確に確認できる運用を整えることが重要です。
規制の対象となる金融商品の範囲
インサイダー取引規制の対象となる金融商品には範囲があります。金融庁のQ&Aによると、主な対象は上場会社についての株式・新株予約権証券・社債のほか、J-REIT(不動産投資信託)や上場インフラファンドです。これに対して、ETF(上場投資信託)や一般に販売されている大部分の投資信託は規制の対象ではありません。ただし、いわゆる自社株投信のように個別の上場会社の株式等のみを投資対象とする株式投資信託は対象に含まれます。社内の売買管理ルールを設計する際は、過度に取引を制限しないよう、規制対象となる商品とそうでない商品を区別して整理しておくとよいでしょう。
個別列挙されない事実も対象となる「バスケット条項」
重要事実は、金融商品取引法第166条第2項第1号から第3号まで(子会社については第5号から第7号まで)に網羅的・具体的に列挙されています。これに加えて、金融庁のQ&Aによると、同項第4号の「バスケット条項」(子会社については第8号)が設けられており、列挙された事実以外でも、会社の運営・業務・財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものは重要事実として扱われます。過去にバスケット条項が課徴金納付命令や刑事告発の対象となった例として、複数年度にわたる粉飾決算などの決算・財務関連情報や、主要製品の重大な欠陥が判明した事例などが挙げられています。個別列挙に当てはまらないからといって安心せず、投資判断に大きく影響する事実は公表前の取引を控える運用が求められます。
その売買、インサイダー取引にあたる?
未公表の重要事実を知っている状態で自社株などを売買しようとしている?
重要事実を職務等に関して知っており、公表前に売買する場合
インサイダー取引として禁止される(会社関係者・情報受領者が対象)
重要事実がTDnet等で公表された後に売買する場合
売買は可能(公表後は解禁)
そもそも重要事実を知らずに売買する場合
インサイダー取引にはあたらない
出典: 金融庁・証券取引等監視委員会『インサイダー取引規制に関するQ&A』基礎編(問1・問3・問4)。スクープ報道があっただけでは法令上の『公表』にはあたらない点に注意。
インサイダー取引規制の対象となる金融商品・ならない金融商品
規制の対象(主なもの)
- –上場会社の株式
- –新株予約権証券
- –社債
- –J-REIT(不動産投資信託)
- –上場インフラファンド
- –自社株投信(個別の上場会社株式等のみを投資対象とする株式投資信託)
規制の対象ではない
- ✓ETF(上場投資信託)
- ✓一般に販売されている大部分の投資信託
「重要事実」の主な類型(金融商品取引法)
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 決定事実 | 株式の発行(増資)、自己株式の取得、合併・会社分割、事業譲渡、業務提携・解消 など(会社が「決定」した事項) |
| 発生事実 | 災害・業務に起因する損害、主要株主の異動、訴訟の提起・判決、行政処分 など(会社に「発生」した事項) |
| 決算情報 | 売上高・経常利益・純利益などの業績予想や配当予想の修正(一定の基準を超える変動) |
| バスケット条項 | 上記以外で、会社の運営・業務・財産に関する重要な事実で投資判断に著しい影響を及ぼすもの |
| 公開買付け等事実 | 公開買付け(TOB)等の実施・中止の決定 |
違反した場合のリスク
違反には5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)。法人は5億円以下の罰金。得た利益は没収・追徴され、別途、課徴金(利得相当額)の対象にもなります。
対応チェックリスト
自社で行う対応の一例です。チェックを入れると進捗がこの端末に保存されます(サーバーには送信されません)。
※ 一般的な対応例です。個別の要否は専門家にご確認ください。
よくある質問
役員でなくても対象?
東証のルールと法律はどう違う?
対象になるのはどんな人・企業ですか?
どんな規制ですか?
注意しておくことはありますか?
法令の原文はどこで確認できますか?
関連する改正
一次情報・出典
この情報の最終確認日:2026年5月31日